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映画『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) (2015)』ネタバレあり レビュー 感想「マイケル・キートン ストライクスアゲイン」

マイケル・キートンストライクスアゲイン

 

 

 今回紹介する映画は2015年のアカデミー賞で9部門にノミネートされ、作品賞などその年の最多4部門を受賞したこの作品。

 

 

『バードマンあるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡) (2015)』

 

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監督

アレハンドロ・G・イニャリトゥ

 

役名/キャスト

リーガン/マイケルキートン

サム/エマ・ストーン

マイク/エドワード・ノートン

ジェイク/ザック・ガリフィアナキス

レズリー/ナオミ・ワッツ

 

あらすじ

 過去に人気スーパーヒーロー”バードマン”を演じ一斉を風靡したリーガン。その後、ヒット作に恵まれず世間から忘れさられていた彼はブロードウェイで自身が主演する舞台を企画し一世一代の挑戦に出る。

 

 

注意:以下ネタバレを含みます

 

 

崩壊しかけた家族とその家族の再生

 本作の監督でもあるアレハンドロ・G・イニャリトゥの過去作『21グラム』『バベル』『BEAUTIFUL ビューティフル』に共通するのはどの作品も崩壊しかけた家族とその家族の再生を描いているということです。そのテーマは本作『バードマン』にも共通していて。リーガンは妻ローラと離婚、娘のサムはグレてしまい元薬物依存症です。

 

ノーカット長回しにより現実と虚構の境目がシームレスに

 ノーカット長回し映画といえば邦画では三谷幸喜監督の『大空港2013』や『shoot cut』などがありますがどちらの作品も舞台監督でもある三谷幸喜が「舞台でやっていることをそのまま映画でやってしまえば面白いだろう」という安直なアイデア一本勝負であり、ただの技術の見せびらかしに終わってしまっています。

 

 しかし今作ではノーカット長回しという演出が、ストーリー上で大きな役割を担っています。

 リーガンが舞台の楽屋でブリーフ一丁で空中であぐらをかいているシーンから映画は始まります。しかしこれはリーガンの幻想で現実ではありません。しかし本作は最初から最後までワンカット長回し(実際はCGで映像をつないでいる)で進行していくため現実と幻覚の境目がシームレスに映し出されるためその境目が曖昧になります。

 これは『クローバー・フィールド』でカメラのビデオテープを重ね取りしているという設定を生かし。ニューヨークを襲う怪獣の映像(非現実)に、仲むずまじい主人公とその彼女の過去の映像(現実)を度々カットインさせることで、現実と非現実のギャップを生み出しす方法とは全く逆の演出です。

 

 その後もリーガンは手に触れずにテレビの電源を切ったり、花瓶を割ったり、ビルの上から飛び降りたと思ったら、そのままニューヨークの空を飛び回ったりしますが、どこからが本当のことでどこまでが嘘なのかだんだん分からなくなっていきます。

 また映画の中の人物であるリーガンが、過去にバードマンを演じていたように、彼を演じたマイケルキートンもまた、過去にスーパーヒーローであるバットマンを演じていたりと、二人に多くの共通点があることから映画と現実の境目すら曖昧になっています。

 

バットマン』『バットマン リターンズ』のマイケル・キートンバットマン

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リーガンのもう一つの人格「バードマン」

 リーガンの頭の中で彼に語りかける声、それは彼が過去に演じたキャラクター「バードマン」です。バードマンはリーガンに「演劇なんてやめてしまえ、お前にはヒーロー映画の方が向いている」とそそのかします。しかしそれはリーガンの本心なのかもしれません。

 

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ジェレミー・レナー?誰だそれ

 映画序盤、リハーサル中の事故により出演出来なくなったラルフの代役を誰にするかをリーガンとジェイクが話し合うシーンでこのような会話があります。

 

リーガン「マイケル・ファスベンダーは」

ジェイク「『X-MEN:フューチャー&パスト』の撮影中」

リーガン「ジェレミー・レナーは」

ジェイク「誰だ?」

リーガン「『ハート・ロッカー』でアカデミー賞候補になった」

ジェイク「『アベンジャーズ』に出てる」

リーガン「あいつもスーパーヒーローなのか、信じられん」

 

 リーガンがヒーロー映画に嫌気がさしていることがよく分かります。そしてリーガンがジェイクにジェレミー・レナーと言ってすぐに誰のことか分からなかったことで「ヒーロー映画俳優=名前を覚えてもらえない」というイメージがあることが分かります。実際、演じた役の名前を言えても演じた俳優の名前が出ない人も少なくはないはずです。

 

X-MEN』シリーズでマイケル・ファスベンダーが演じたマグニートー

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アベンジャーズ』でジェレミー・レナーが演じたホークアイ

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チャンスが来なかったのではなく自分でチャンスを蹴っていた

 雑誌のライターからインタビューを受けるリーガンは20年前に『バードマン4』のオファーを断ったことを明かしました。つまり世間は彼にまたヒーロー映画に出て欲しいと思っているのにも関わらずリーガンはそれを拒否し演劇の世界で売り出そうとしていることがわかります。

 また、リーガンを演じたマイケル・キートンもハリウッドの「ヒットした作品は続編を作る」という方針をよく思っておらず『バットマン』の時もティム・バートンが3作目では監督を降板すると知って主演をヴァル・キルマーに譲りました。

 

バットマン フォーエバー』のヴァル・キルマーバットマン

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「バードマンは神話のイカロスに…」

 リーガンはインタビュー中「バードマンは神話のイカロスに…」と言いかけました。

 イカロスとはギリシア神話に登場する蝋でできた鳥の羽を持った人物。ある時、イカロスが太陽を目指して飛んでいくと太陽熱で翼が溶けてしまい、墜落し死亡したとされています。

 つまりリーガンはバードマンをという蝋の翼で映画スターへの道を順調に進んでいたがイカロスが己の傲慢さから死を遂げてしまったように、自分も酷評されスターになれずに堕落するのを恐れてバードマンを演じるのをやめたのでしょう。

 

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「お前の半分の才能もない男が、ブリキの木こりの格好をして大儲けしてる」

 ブリキの木こりというのはニュース映像に映っていたロバート・ダウニーJr.の演じるアイアンマンのことです。

 バードマンは「我々は本物だろ?リーガン。全てを手に入れ、手放した。天の国への鍵をキザな役者共に渡した。」とリーガンに語りかけます。要するに「ヒーロー映画俳優として一躍有名になったのにも関わらず、自らその世界から退き、スターへの切符を若手俳優に譲ってしまった。」ということを言いたいのでしょう。これはマイケル・キートンの人生そのものではないでしょうか。

 

飛行機の中でジョージ・クルーニーと乗り合わせた

 過去に、ジョージ・クルーニーと同じ飛行機に乗り合わせたリーガンは、その飛行機が墜落したら新聞の記事には自分の名前ではなくジョージクルーニーの名前が書かれ自分は世間に知られることなく死んでいくのだと考えた。と言いました。

 ジョージ・クルーニー、彼も、マイケル・キートン同様『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』でバットマンを演じた俳優でした。しかしジョージ・クルーニーそもそもバットマンを演じる前からトレンディ俳優であり『バットマン&ロビン』は大コケしたもののその後、ヒット作に恵まれました。一方、リーガンを演じたマイケル・キートンはというと…。

 しかし、さすがにマイケル・キートンが飛行機事故で死んだら新聞の記事に載らないという事は無いでしょう。つまりこれはリーガンの考えすぎと取ることもできます。

 

バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』のジョージ・クルーニーバットマン

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「バードスーツの中に誰がいたのかみんな忘れた」

 これもまたリーガンの被害妄想でしかないことがバーや街中でリーガンを見た一般人が彼の名前をちゃんと覚えていたことから分かります。 

  

『バードマンvsスーパーマン』?

 リーガンがビルの屋上から飛び降りるシーン、よく見ると後ろの方にスーパーマンの映画『マン・オブ・スティール』の広告が!

 

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 本作の撮影が行われたのは2013年、ちょうど『マン・オブ・スティール』が公開されていた時期と被っています。たまたま写ってしまったのでしょうか?それとも監督の遊び心?

 

「俺は存在しない」

 舞台『愛について語るときに我々の語ること』でリーガンが演じるエドは妻に愛されていないことを知り、生きる意味を失い「俺は存在しない。ここにさえ。」と言い放ち銃で自分の頭を撃ち抜きます。

 

「この芝居は俺自身の出来損ないのミニチュアだ」

  リーガンが「この芝居は俺自身の出来損ないのミニチュアだ」と言ったように、マイケル・キートンの人生と本作の主人公であるリーガンは似ていて、さらにリーガンと彼の演じた『愛について語るときに我々の語ること』のエドも似ています。これはまるでマトリョーシカのような構造です。

 

『シャイニング』へのオマージュ

 劇場の裏方の廊下の床の柄をよく見ると『シャイニング』のオーバールック・ホテルの床の柄にそっくりだということが分かります。リーガンは『シャイニング』のジャックと同様に、話が進むにつれて徐々に精神を破綻させていきます。

 

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 そしてリーガンと元妻のローラが喧嘩をした時にバスルームに篭ったという話をしてるのも有名なこのシーンへのオマージュのようにも取れます。(考えすぎか?)

 

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 また

『シャイニング』でジャック・トランスを演じたジャック・ニコルソンマイケル・キートンブルース・ウェインを演じたティムバートン版『バットマン』で宿敵ジョーカーを演じています。

 

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リーガンの確立したスーパーリアリズム

 実弾で自分の頭を撃ち抜こうとしたリーガンでしたが弾は「バードマンにはならない」という無駄なプライドの鼻っ柱をへし折るどころか文字通り実際の鼻をぶち抜きました。リーガンは舞台上で一度死に、新しく取り付けられた人工の鼻はまるで鳥のくちばし。復活した彼はバードマンという役と一体化を果たしたのです。

 

 自分の頭を撃ち抜き死ぬことでもう一人の自分も道連れにしようとするのは本作にも出演しているエドワード・ノートン主演の『ファイトクラブ』のラストにも似ています。ちなみにエドワード・ノートンはマーベルのヒーロー映画『インクレディブル ハルク』にも出演しており、この作品も主人公の二面性が主題となっています。

 

 序盤のラルフの頭に照明が落ちてきたシーンで、リーガンが「あんなに下手くそな役者は今までに見たことがない。まともなのは耳から流れてきた血だけだ。」と言っていたいたのが伏線になっています。

 

 また、病室で目覚めたリーガンの顔に貼られた包帯は『オペラ座の怪人』へのオマージュで向かいのMAJESTIC劇場の『オペラ座の怪人(PHANTOM)』の看板が何度か映るのはこのシーンへの伏線となっています。

 

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サブリミナル的に挿入される映像

 リーガンが実弾で自分を撃った時、この映画で初めてカットが変わり意味深なイメージ映像が挿入されます

 

クラゲ

 海から砂浜に打ち上げられた大量のクラゲを鳥が突ついている映像が映し出されます。リーガンが最後の結婚記念日に浮気をしていることが妻にバレ、海でわざと溺れて自殺しようとした時、海にいたクラゲに刺され一心不乱に陸に上がったことで自殺を思いとどまったと話していたのと何か関係しているのでしょうか。

 

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隕石

 冒頭でも挿入された、二つの尾を引いた隕石の映像がこのシーンでもまた映し出されます。この二本の尾はリーガンとバードマンという二面性の象徴とも取れます。

 

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 また、隕石といえばイニャリトゥ監督が翌年に制作した『レヴェナント 蘇りし者』でもあるシーンで隕石が降り注ぎます。監督はこの隕石について特に何も語っていませんが2作品連続で出してきたので何か考えがあるのでしょうか。

 

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「みんなあなたを待ってるわ」

 楽屋に居るリーガンを内線で呼ぶ女性の声が何度かこのセリフを言います。深読みかもしれませんがこのセリフは「リーガンが映画界の表舞台に戻ってくることを世間のみんなが待っている」ということを暗示しているのかもしれません。

 

ラストシーンでサムが見たもの

 サムが病室に戻るとそこにリーガンお姿はなく彼女は彼が飛び降りたのではないかと思い慌てて窓の外を見ます。リーガンを探すサムが空を見上げ、何かを見た彼女が微笑んで映画は終わります。これはリーガンが退院後『バードマン4 不死鳥の復活』に出演し、ヒーロー映画界に復活を果たしたことを暗示しているとも取れます。

 過去の栄光『バードマン』はリーガンにとって重荷ではなく翼だったのです。

 

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そして…

 

 『マイケル・キートン:ホームカミング』!

 映画ではリーガンがバードマンとしてヒーロー映画界に復帰しますが彼を演じたマイケル・キートンも同じく『スパイダーマン:ホーム・カミング』でヴィランのヴァルチャーとしてヒーロー映画界に帰ってきます!

 ヴァルチャーとはその名の通りハゲタカのようなヴィランでまさにバードマン(鳥男)!意図的にキャスティングしたとしたらこれほどぴったりな配役は他に無いでしょう!

 映画『バードマン』の中で現実と幻想の境界が曖昧だったように映画の中の出来事が現実になったのです!『スパイダーマン:ホーム・カミング』での彼の活躍が楽しみで仕方ありません。

 

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