アルバム解説 "PUNPEE - Modern Times" 映画、アメコミ関連ネタまとめ
"PUNPEE - Modern Times"
HIP-HOPグループ"PSG"のメンバーとして知られ、レッドブルのCMソングやフジテレビ『水曜日のダウンタウン』の音楽プロデュースも務める、ラッパー兼プロデューサーPUNPEEが満を持して贈るファン待望の1stアルバム"Modern Times"が発売されたのは去年の10月。では、なぜ今更そのアルバムの記事を私が書こうと思ったのか。それには大きな理由がある。
このアルバムについて、HIP-HOP的にとか音楽理論的に語っているブログは数え切れない程ある。しかし、歌詞に込められたPUNPEEの"オタク的エッセンス"をうまく汲み取れているブログがほとんど無かったからだ。
今回のアルバムに限らず、PUNPEEの楽曲には映画やコミックスの小ネタが忍ばされいることがよくある。それは彼が中学時代からアメリカンコミックスに読みふけ、レンタルビデオ屋でバイトをしていたことが影響してだろう。
PUNPEE本人がこのアルバムを自ら解説している"Modern Times -Commentary-"が配信されている。今回はそこでは触れられていない小ネタを映画とアメコミに絞ってサクッと解説していくことにしよう。
まずはジャケットや歌詞カードのアートワークから。
ジャケット表
① : ジャケット中央の車はPUNPEEの愛車ビートルに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のデロリアンの次元転送装置"フラックス・キャパシター"を積んだタイムマシン。
タイヤが横向きになっているデザインはドラマ『エージェント・オブ・シールド』に登場するコールソンの愛車ローラが元ネタか?
② : 3曲目"Happy Meal"の"ありったけのチーズバーガー チミチャンガにワッパー"というリリックにもあるのワッパー(ハンバーガー)。ちなみに"チミチャンガ"とはMARVELコミックスのヒーローデッドプールの大好物として有名なメキシコ料理だ。
③ : PUNP 33 → PUNPEE
④ : 映画『They Live』のVHS。16曲目"Hero"のリリック"偉い人に化けた異星人が"はおそら『They Live』へのオマージュ。
ちなみにSaluの"Goodtime"のMVも『They Live』とが元ネタだったりする。
⑤ : DCコミックスの言わずと知れた名作コミック『ウォッチメン』のTPB(アメコミの単行本4,5話収録、値段は15ドルから20ドル程度)。"ウォッチメン"の小ネタはPUNPEEの楽曲のリリックによく登場する。PUNPEEファンならマストな作品だろう。
⑥ : 時空の渦がレコードの溝のようになっている。9曲目"P.U.M.P."のリリック"時はいろんな形で俺らを傷つけ試してくるけど アナログ盤みたいにね 傷も味になればいい そうだね"繋がりか?
ジャケット裏
(画像が無かったので直撮りですみません^^; スキャンしたら更新します)
① : ジャケットで分からなかったネタ2つあって、そのうちの一つがこの亀。PUNPEEがティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズが好きなことは知っていたが見た目が全然違うし何なんだろう…と思ってたらどうやら25年間飼ってる亀らしい。分かるわけないだろ!w
② : PUNPEEが翻訳監修した翻訳アメコミ"LOBO ポートレイト・オブ・ア・バスティッチ"。
PUNPEEのキレッキレのワードセンスが炸裂していて最高なので是非読んでいただきたい。
③ : PUNPEEがCMソングを担当したことのあるエナジードリンクレッドブル風の缶。
④ : PUNPEEの所属しているグループPSGのファーストアルバム"David"。
⑤ : レコードのラベル部分が赤だったので"曽我部恵一 - サマーシンフォニー feat. PSG"かと思いましたがよく見るとなんか違いますよね…引き続き情報お待ちしております。
歌詞カード(ブックレット)
表紙
CONFIDENTIAL(極秘、内密)と書かれている。
ISSUGI
元ネタは『スパイダーマン』のヴィラン、エレクトロ?(アメイジング2 × アルティメット?)
アルティメットスパイダーマンのエレクトロ
GAPP(GAPPER)
単純にゴールデンエイジの頃のアイアンマンにも見えるがアイアンマンのヴィラン、アイアンモンガー、チタニウムマン、クリムゾンダイナモなどの要素も感じる。
ゴールデンエイジのアイアンマン
アイアンモンガー
チタニウムマン
クリムゾンダイナモ
SUMMIT COMICS(コミックショップの看板)とアルバムのタイトルの元ネタとなった"Modern Times(1936)"のチャップリンのポスター
疲れた…アートワークだけでもこれだけのネタの詰め込み具合、PUNPEE本当すごいよ…しかし、ここからが本番なので気を引き締めて行こう。
では楽曲の小ネタ紹介。(解説するほどのネタが無い曲は飛ばしてます)
2.Lovery Man
"メガネとって髪揃えなきゃ 俺って誰も気付きやしないから"
スーパーマンことカル・エルが地球人クラーク・ケントに変装する際メガネをかけていることへのオマージュ?
"今見てるリーフのComics"
"リーフ"とはアメリカンコミックスの出版形態のひとつでB5サイズ、フルカラー、32ページ、中綴じで1話だけ収録された物を指す和製英語。アメリカ本国では"issue"などと呼ぶことが多い。価格は一冊大体2ドルから3ドルほど
非常に薄い
3.Happy Meal
タイトルの"Happy Meal"とはアメリカ本国でいう"ハッピーセット"のことだ。
"ありったけのチーズバーガーチミチャンガにワッパー"
上記
"前にいったよな?エンドロールで席を立つなよって"
エンドロール後にクリフハンガー(続編に期待させる演出)や重要なおまけ映像が流れるからエンドロールを最後まで観ないといけないのはMARVEL映画ファンの間ではお決まりになっている。また最近では映画の最初に"エンドロール後に特別映像があります"とスクリーンに表示されるようになってきている。
"でも皆 予想外 まだ座ってやがる お待たせ 暇人ども さぁ行こうか"
上記のお決まりを逆手にとって『デッドプール(2015)』『スパイダーマン:ホーム・カミング(2017)』では映画内のキャラクターが観客に対して"まだいたの?"や"忍耐力とは〜"などと皮肉を言う演出があった。
"時代はあれもこれもみんな先に決めつけてさ 想像するだけで このままじゃ豚箱行きさ "
『マイノリティ・リポート(2002)』と『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー(2014)』へのオマージュだろうか?両作とも作中で犯罪予知システムが導入されることの弊害が取り上げられている。
"最初に夕日に魅せられた暇な猿が進化し俺らが始まった"
『2001年宇宙の旅』へのオマージュ。
"マカロニ カーチェイス"
"マカロニ"とはイタリアで撮られたウェスタン映画、通称"マカロニウエスタン"のことを指している。"カーチェイス"はアメリカンニューシネマ最盛期によく撮られていた映画ジャンルだ。
"マコーレンなら家に篭り過ぎ ホームアローンの後ジャンキーさ"
ホームアローンの主役を演じたマコーレー・カルキンが虐待とかいろいろあって現在はグレてジャンキーになっているのは有名な話ですね。
"輸入盤のInkかいで俺もtrippin'"
「輸入アメコミのインクはめっちゃ臭い」っていうアメコミギークあるあるが元ネタ?
"ジョニー・ネモニック"
キアヌ・リーブスと北野武共演のSF映画『JM』でキアヌの演じた主人公の名前。
"ニキビ面みてる トロマムービー"
"トロマ"とは『悪魔の毒々モンスター』シリーズや『カブキマン』などの低予算名作バカ映画を大量排出している映画会社である。
「悪魔の毒々モンスターはマジでマストだぜ」
by PUNPEE (オタク IN THE HOOD : PSGより)
"俺らって一人一人 パラレルワールドの支配人"
これは少し考えすぎかもしれないがPUNPEEの事だから多次元のパラレルワールドからいろんなスパイダーマン達が集結する"スパイダーバース"辺りからインスピレーション得ていそう。
3.宇宙に行く
"肌がGreen 膣が3つある女子たちと"
元ネタは『トータルリコール』か『宇宙人ポール』?3つなのは膣ではなく乳だが。
"3:02からの間奏"
よく耳をすませて聴いてみると『スターウォーズ』の独特なレーザー機銃の音やR2-D2のピコピコ音などのSEが盛り込まれている。
6.Scenario(Film)
"エド・ウッドみたいに金なし"
"エド・ウッド"とは、製作した作品が全て興行的に失敗した、ある意味伝説の映画監督。ティム・バートン×ジョニー・デップのコンビで伝記映画も作られた。
"僕は第四の壁越しに いもしない客に愚痴こぼしてさ"
"第四の壁"とは演劇用語で舞台と観客の間にある見えない壁のことを言う。『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などで登場人物が観客に向かって語りかける演出が多用されていたがあの演出のことを"第四の壁を壊す"と言いMARVELコミックスのデッドプールもよく第四の壁越しにコミックの読者に語りかけたりする。
"歩く死体"
ドラマ『ウォーキング・デッド』実は原作はアメコミ。
9.P.U.M.P.(Communication)
"お茶の間でリンチ"
おそらく映画監督デヴィッド・リンチの事。
10.Stray Bullets
"Stray Bullets"は流れ弾という意味。
"急げや急げ走れないガンプ"
映画『フォレストガンプ 一期一会』より。"Run, forest Run!"
"きみが忘れたウッディとバズもきみの子供がハマってまたバズ"
映画『トイ・ストーリー3』より。微妙にニュアンスが違うがだいたいそういう事だろう。
13.タイムマシーンに乗って
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』をイメージして書かれたであろう一曲。
"願わくばディスコで親父と母さんが会った日に行きたいね後ろのJocksに酒かけて息子直々にチャンス作ってやんぜ"
元ネタはおそらく『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
Jocks = アメフト部に所属してるようなイケてる奴らの総称。
"どんなデカい時計だって全てさ始まりはこんな小さい歯車"
チャップリンの『Modern Times(1936)』より。
14.Bitch Planet
タイトルの元ネタはimageコミックスの同名コミックスかと思っていたがcommentaryを聴く限り"Pizza Planet"(Pixar作品に出てくるデリバリーピザ、もしくはPUNPEEと同じくSUMMITに所属しているTHE OTOGIBANASHI'Sの曲名から?)→ピザみたいにヘルス嬢をデリバリー→"Bitch Planet"っていうことらしい。センスの塊すぎる。
imageコミックスの"Bitch Planet"
Pixaerの"Pizza Planet"
THE OTOGIBANASHI'Sの"ピザ・プラネット"MV
"宇宙に飛び立って so far? so fly?(ソファー)"
ブックレットにはこの曲の歌詞は載っておらず耳コピサイトには"so far"や"so fly"と書かれていた。しかしよく聴くと"ソファー"と言っているように聴こえないだろうか?もしかすると4月からJ-WAVEで始まったPUNPEEのレギュラー番組"Sofa King Friday"の予告だったのだろうか?
PUNPEEはこの番組の初回(2018.04.06)で番組タイトルの由来について"ソファーで宇宙に飛んでくみたいな感じで。自分の去年出したModern Timesというアルバムも赤いワーゲンが宇宙というかパラレルワールドというかタイムパラドックスの中を飛んでるジャケットなんですけど。宇宙に何かで飛び出してくのが好きなんですよね"と話している。
15.Oldies
"スカーフェイスじゃないが"
ロバート・デニーロ主演作の『スカーフェイス』のことだろうか。
"皆がただの歯車になり狂わぬように"
これもまたチャップリンの『Modern Times(1936)』へのオマージュ。
16.Hero
ほとんどのバースにアメコミ小ネタが詰め込まれまくっているPUNPEEのアメコミ愛と狂気すら感じる至高の一曲。ネタが分かると聴く度にニヤニヤが止まらなくなること間違いなし。この曲のためにこのブログを書こうと思ったと言っても過言ではない。
"板橋の傭兵からの饒舌"
デッドプールはおしゃべりな事から"饒舌な傭兵"と呼ばれている。
"昼はだらしない前髪たらして 裸眼でコンビニの店番さ"
上記のスーパーマンへのオマージュと同じだろう。
"ロイスレーン"
スーパーマンの恋人。
"フラッシュ・トンプソン"
『スパイダーマン』に出てくるピーター・パーカーの同級生のいじめっ子。後に出兵し戦場で両足を失いエージェント・ヴェノムになる。
"バイト代はネガティブなゾーンへ"
MARVEL世界の闇の異空間"ネガティブゾーン"のこと。
"まるでMad Max 輸血袋 最低"
『マッドマックス/怒りのデス・ロード』より。健康な人間は捕らえられ、体に管を通され血液不足のウォーボーイズの輸血袋にされる。
"フレームオン!"
『ファンタスティック・フォー』のヒューマン・トーチが全身を発火させる時に言う決めゼリフ。
"手あかにまみれたシナリオ達をピクニック中にVillainがまたも阻む"
『パニッシャー』より。主人公のフランクキャッスルはピクニック中にギャング同士の抗争に巻き込まれ妻子を殺された。
"Shazam! Kimota! 輝ける日の下も…"
"Shazam!"キャプテンマーベルが変身する際にいう魔法の言葉。Solomon(ソロモン)Hercules(ハーキュリーズ)Atlas(アトラス)Zeus(ゼウス)Achilles(アキレス)Mercury(マーキュリー)の頭文字から取って"Shazam!"である。
"輝ける日の下も…"グリーンランタンが変身する際の決めゼリフ。
"Stanもnuffsaid,,,"
"nuffsaid(いい加減にしろ)"スタン・リーの決まり文句。他には"excelsior!(向上せよ!)"などもある
"骨抜きもアダマンチニウムじゃ辛い"
"アダマンチニウム(正しくはアダマンチウム)"は『X-MEN』のウルヴァリンの骨格に流し込まれたとても硬い金属、彼の自慢の爪の素材もこの金属。
磁力を操るマグニートにその全身のアダマンチウムを抜き取られたことがある。
"Thorの妹もimage違い"
元々imageコミックスという会社に所有権があったアンジェラというキャラクターが作者の意向でMARVELコミックスに移籍することとなりその際に"アンジェラはThorの妹"という設定が追加された。(imageコミックスとイメージのダブルミーニング)
"日本にYashidaやSazaeなんかはいない"
"Yashida"と"Sazae"はMARVELコミックスに登場する日本人のキャラクター。
"クローンと鉢あっちゃったり でもそのクローン自体がモノホンだったり"
『スパイダーマン』の"クローンサーガ"というエピソードでスパイダーマンにクローンがいることが判明して読者を驚かせた。しかも、我々がピーター・パーカーだと思っていたのがクローンで、クローンだと思っていたのが本物のピーター・パーカーだったという非常にややこしい設定も後付けされたが批判が殺到したためこの設定はなかったことにされた。
"テッドコートなら既にこの世にいない"
古代のスカラベのパワーで戦うヒーロー、ブルービートルの二代目。ただし彼はスカラベに選ばれず自らの頭脳と発明品で戦うことに。ヴィランとの戦いで戦死した。
"It's clobberlin time"
『ファンタスティック・フォー』のザ・シングの決めゼリフ。
"実は昔Heroはこの世に実際居て でも色々あってどこかに消えた 僕らは記憶を消されかすかな記憶達がコミックになり残った"
PUNPEE曰く『ウォンテッド』からインスピレーショーンを得た、とのことだがMARVELコミックス最強のヒーロー、セントリーが自らの暴走により妻を殺してしまったショックから世界中の人間の記憶から自分の存在を消して隠居していたというエピソードのエッセンスも感じる。
"偉い人に化けた異星人が"
上記の『They Live』とMARVELコミックスに登場する擬態宇宙人スクラル(チタウリ)が元ネタだろう。
最後に
チャップリンの『Modern Times(1936)』はセリフのない無声映画だったのに対して、PUNPEEの『Modern Times』には画はなく音と歌詞のみのさながら無映像映画のようなアルバムだった。
PUNPEEは"Modern Times -Commentary-"の最後にまた5年ほど裏方に回ると言っていた。彼が色々なアーティストの作品に客演したり自らの作品にお世話になっている人、仲の良い人を誘ったり、別のアーティストに楽曲を提供したり、別名義で活動したりしてるのはアメリカンコミックスのキャラクターが作品間でクロスオーバーをして別キャラの紙面に登場したり色々あってヒーロー名を変えたりするのに似ているなと感じた。
去年の"FUJI ROCK FESTIVAL'17"でPUNPEEはこんなことを言っている
”HIP-HOPって掘ってくとコイツとコイツが仲悪いとか、コイツとコイツが昔やりあってたとか、そういう利害関係みたいなのがよく見えるジャンルだから、よかったらチェックしてください"
PUNPEE自身もそうだがHIP-HOP自体がアメリカンコミックス的な構造を持ったジャンルということだ。
Modern Times Davie
LOBO 毒々モンスター